2026年7月31日、渋谷パルコ9F「GAKU」にて、「いい汗、渋谷。アクション」の一環として、トークセッション「いい汗を知ると、毎日はもっと心地良くなる―汗の科学と身体活動から考える、自分らしい健康づくり―」をテーマに、トークセッションを開催しました。
当日は、順天堂大学スポーツ健康科学部 先任准教授でスポーツ健康科学博士、株式会社attainment代表取締役の室伏由佳先生と、日本体育大学ハイパフォーマンスセンター長・教授、博士(学術)の杉田正明先生を迎え、汗の仕組みや身体活動が心身にもたらす効果について学びながら、自分らしく健康と向き合う方法を考えました。

杉田先生は、30年以上にわたりトップアスリートの科学的支援に携わってきた経験から、汗は単に暑さや運動によって出るものではなく、「体温を調節するための重要な“冷却システム”」であると解説しました。汗は、皮膚表面から熱を逃がす働きとともに、蒸発することで身体の熱を奪い、体温の上昇を抑えています。一方で、発汗によって水分やナトリウムなども失われるため、暑い環境で身体を動かす際には、適切な水分・塩分補給が重要になります。
また、暑さに身体を慣らす「暑熱順化」によって、汗をかきやすくなり、より効率的に体温を調節できるようになることも紹介。暑さに慣れていない時期には汗が出にくく、熱が身体にこもりやすくなる一方、暑熱順化が進むことで、発汗による体温調節機能が高まっていくと説明しました。
さらに、杉田先生がこれまでアスリートの汗を分析してきた研究から、汗に含まれる成分には大きな個人差があり、ナトリウムやカリウムだけでなく、カルシウム、マグネシウム、鉄など、さまざまな成分が含まれることも紹介されました。ここで強調されたのが、「汗はデトックスのためにかくものではない」ということ。汗の重要な役割は、汗が蒸発することによって身体を冷やすことにあります。

つづいて、室伏先生は、現在と将来の健康を考えるうえで、「どのように身体を動かすか」に加えて、心理社会的な側面にもスポットをあてて、はじめに自分自身の身体をどう捉えているかという「身体イメージ」について概説しました。
身体イメージとは、自分の身体の外見や機能についてどのように捉え、感じているかを含む、自分の身体に対する認識のことです。身体イメージは幼少期から形成され、家族や友人、社会や文化など、周囲から受けるさまざまな影響によってつくられていきます。特に成長過程において、思春期は体格やBMIなどが変化する時期であるため、身体への不満を抱きやすい時期とされています。近年では、SNSなどを通じて自分の身体や外見を他人と容易に比較できるようになり、日本においても「痩せたい」「美しくなりたい」という意識が助長されていると言います。驚くことに、小学校低学年の女児の約50%が「痩せたい」と回答するなど、瘦身志向の低年齢化という課題にも触れました(内閣府SIP調査より・未公表)。
また、家族、とくに母親からの何気ない「顔が丸くなったね」「最近太ったんじゃないの」といった言葉が、ダイエット行動のきっかけになることが分かっており(マイウェルボディ協議会2023年度調査より)、家族からの言葉がダイエット行動に影響する可能性があります。室伏先生自身、アスリート時代に体格に関して周囲から何気ない言葉をかけられたことがあるといい、そうした経験も交えながら、周囲からかけられる言葉が、人の心や身体との向き合い方に影響を及ぼすことについて触れました。
そして、「痩せていること=健康」ではないという点も重要なテーマに。特に若い女性では低体重・低栄養が課題となっており、将来の健康リスクが懸念されています。そうした背景から、2025年に日本肥満学会から「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS(ファス))」という新たな疾患概念が提唱されました。FUSでは、低体重だけでなく、低栄養による健康課題も含めて捉えれています。FUSを予防し、健康に生活していくためには、だれにでも大切なこととして、「しっかり食べる」「身体を動かす」「睡眠をとり回復する」ことを含めた基本的な健康行動の実践が重要だと語りました。
身体を動かすことは、体力の向上や維持、生活習慣病予防だけでなく、ストレスの軽減など心の健康にもつながるといいます。さらに、中程度の運動負荷をともなう身体活動がネガティブ記憶の忘却を促す効果があるという研究を紹介。身体を動かすことは、身体だけでなく心の面にも働きかけるものだという視点が共有されました。

杉田先生と室伏先生のクロストークでは、室伏先生のアスリート時代の経験も振り返りながら、「運動はこうあるべき」という一つの正解があるわけではないという話にも発展しました。一人で集中して取り組むことが向いている人もいれば、仲間と刺激し合いながら身体を動かすことが楽しい人もいます。バスケットボールやバレーボールなどのチームスポーツ、陸上競技や競泳などの個人競技に加え、ブレイキンやスケートボードなどのアーバンスポーツにも話題が広がり、それぞれが自分に適したスタイルで身体を動かすことの大切さを語りました。
また、運動を習慣化するためには、ジムに通ったりと、まとまった時間を確保したりする方法もありますが、それ以外の工夫も大切だと室伏先生からお話しいただきました。たとえば、小さな行動の積み重ねとして、自宅でドライヤーをかけながら足踏みをする、かかとの上げ下げを繰り返す、テレビのCMの間に身体を動かす、外出時はいつもより少し早いペースで歩く、階段や坂道を選ぶなど、日常生活の中に短い身体活動を取り入れ、一日の活動量を上げること、そして積み重ねていくことが大切だといいます。
「60分間続けて運動やスポーツをしなければならない」という考え方に固執せず、まずは短い時間の活動に分けながら、自分の生活スタイルに合わせて身体を動かす。そんな小さな積み重ねが、無理なく身体活動を続けるきっかけになると提案しました。
さらに、渋谷という街そのものを身体活動の場として捉えるアイデアも。スマートフォンを見ながら歩くのではなく、少し周囲の景色を楽しみながら歩く、歩行速度を少し上げてみる、階段や坂道を選んでみるなど、「街を歩くこと」を、身体を動かすきっかけに変えることで、日常の中に自然と活動量を増やすことができます。

質疑応答の時間では、会場からさまざまな質問や相談が寄せられました。「サウナでかく汗も健康に良いのか」「汗を抑える制汗剤を使い続けても大丈夫なのか」「緊張すると出る“冷や汗”は、運動でかく汗と何が違うのか」といった、日常生活にまつわる質問も寄せられました。
杉田先生からは、サウナによる発汗も自律神経への刺激や暑熱順化という面では意味がある一方、運動による発汗とは異なること、また緊張時の汗は交感神経の活動によって生じるため、深呼吸などで心身を落ち着かせることが有効だと解説しました。汗をかく場面や理由はさまざまですが、自分の身体の反応を知ることが、コンディションを整える第一歩になることが示されました。
最後に、杉田先生からは、毎日10~20分程度歩く、階段や坂道を使うなど、無理のない身体活動を続けることで、暑さから身体を守る「防衛体力」を高めてほしいというメッセージが送られました。室伏先生からは、まず「今日、自分はどこで身体を動かしているか」を意識してみること、そして自分の生活の中に小さな「マイルール」をつくり、少しずつ新しい身体活動を取り入れていくことが提案されました。

「いい汗」は、たくさん汗をかくことだけを意味するものではありません。
自分の身体の仕組みを知り、無理なく身体を動かし、自分に合った方法で心身を整えていく。その積み重ねが、自分らしい健康につながっていく。今回のトークセッションは、汗をきっかけに、自分の身体と日々の過ごし方を見つめ直し、「もっと頑張らなければ」ではなく、「自分にできることから始めてみる」ためのヒントを共有する機会となりました。
「いい汗、渋谷。アクション」では、これからも「汗をかくこと」「身体を動かすこと」をもっと身近に、もっとポジティブに捉えられるきっかけを、渋谷の街から発信していきます。
運動のために特別な時間や場所をつくるだけでなく、歩く、階段を使う、少し身体を伸ばす、仲間と身体を動かす――。そんな日常の小さなアクションを積み重ねながら、誰もが自分らしく身体を動かし、心地よく汗をかける街・渋谷を目指していきます。
いい汗から、毎日をもっと心地よく。
「いい汗、渋谷。アクション」は、これからも続いていきます。


